こんにちは!
榎本澄雄です。
8月26日、火曜日。
8月29日は、旧暦の七夕です。
「伝統的七夕」と呼ばれています。
不正を暴く
トリックスター列伝
企業犯罪VS知能犯刑事
麻布署6年の研究と発見 第7回
2020年10月8日から
2021年11月2日まで
私がリスク対策.comに
連載していた記事を紹介します。
私はリスク対策.comから撤退し、
過去の記事を削除してもらったので、
現在は閲覧ができない状態となっています。
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2021年7月8日 リスク対策.com
『企業犯罪 VS 知能犯刑事 麻布署6年の研究と発見』
100年企業の成長を今すぐ守る!「捕食者」の検分方法~その5(トリックスター列伝)
第7回 刑法第246条 詐欺罪
第1回の記事はこちらです。
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第2回の記事はこちらです。
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第3回の記事はこちらです。
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第4回の記事はこちらです。
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第5回の記事はこちらです。
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第6回の記事はこちらです。
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こんにちは。元知能犯刑事、榎本澄雄です。
今回は「100年企業の成長を今すぐ守る!「捕食者」の検分方法~その5(トリックスター列伝)」というテーマです。
ポイントは三つ。
1 なぜ、詐欺師は逃げないのか?~詐欺師の生態
2 なぜ、詐欺事件の捜査は進まないのか?~告訴相談の切り開き方
3 どのように詐欺師を見分ければ良いのか?~詐欺師の見分け方
です。
前回は「どのように詐欺師を見分ければよいのか?~詐欺師の見分け方」について、「地面師の生態」「被害総額20億 地面師詐欺で新たに5人逮捕」「地面師詐欺12のプロット」「犯罪により害を被ったのは、誰か」「地面師詐欺と民事上の損害」「地面師グループ10人の役者」「地面師詐欺共同捜査本部」を中心にお話ししました。
生存賭けた地面師詐欺捜査本部
企業犯罪VS知能犯刑事
麻布署6年の研究と発見 第6回
今回は「どのように詐欺師を見分ければ良いのか?~詐欺師の見分け方」について、「トリックスター あご師」「笑顔の仮面、般若の貌」「非言語情報の解読」「消せない匂い」「探索心得」「詐欺師と不良の広域ジョイント・ベンチャー」「詐欺師は、ラウンジにいる」「振り込めコールセンター」「ザ・コンサルタント」「クロサギ」「数字も、嘘をつく」「照星・照門を合わせる質問」「月には太陽が眩しくて……」「馬鹿を見るのは、正直者か」を私の記憶を辿りながらお話しします。
トリックスター あご師
私の印象に残っている稀代の詐欺師、トリックスターをご紹介します。『トリックスター群像』井波律子=著(筑摩書房)では、トリックスターを以下のように説明しています。
「トリックスターとは道化者、悪戯者、ペテン師、詐欺師等々の要素を合わせもち、ときには老獪かつ狡猾なトリックを駆使して、既成の秩序に揺さぶりをかけ攪乱する存在を指す。ヒーローではなくアンチヒーロー、正統派ではなく反正統派こそがトリックスターなのだ」
昔、詐欺師との会話から聞いたところによると、「あご師」とは、弁舌、あごだけで世間を渡り歩く人物を指す隠語とのこと。あご師は、まさしくトリックスターです。
笑顔の仮面、般若の貌
私が従事していたある組織詐欺捜査本部では、メンバーの逮捕状、関係先の捜索差押許可状を取り、一斉検挙に着手していました。私たち捜査員は前日の深夜から自宅付近に張り込み、息を潜めて、夜明けとともにガサ(捜索差押え)を打つ手筈でした。
犯人は、裏社会では名の知れた詐欺師でしたが、表では都内に一軒家を持ち、家庭があり、車はシルバーのベンツに乗っていました。家族にはセールスの仕事をしていると伝えていたようです。ガサの時にこんなやり取りをしました。
私「なぜシルバーのベンツに乗るんですか?」
被疑者「黒のベンツだと職質されやすいでしょ」
彼の「イメージ戦略」は徹底していました。以前、詐欺事件の参考人として呼び出しを受けたときの写真を見たことがあります。短く刈り込んだ髪、べっ甲の眼鏡を掛け、やや肉付きのよい体格にグレーがかったダブルのスーツを着込み、茶色いネクタイ。一見、温厚なイメージで、清潔で決して下品でなく、どこか茶目っ気があり、どちらかというと憎めないタイプでした。
最も私の目を引いたのは、その時の姿勢、表情です。取調室で気を付けの姿勢のまま、若干、おどけた仕草で首を傾げ、満面の笑みで被写体となっていました。すでに捜査に取り掛かり、彼を本星と睨んだ私たちもこの写真を見て「ここまでやるか……」と驚きを隠せませんでした。
ガサで自宅や車を主に捜索したのは私です。麻布署六本木交番で主任をしていたとき、六本木や西麻布の人や車をたくさん職質(職務質問)して、検挙して来たので、凶器や禁制品に鼻が利いたからです。
職質にはコツがあって、まずひと声掛けて、最初の反応を見ます。次に所持品検査に協力していただき、そのときに、持ち物を見せてもらいながら、さらに相手の反応をよく見ます。言語の受け答えはほぼ聞き流して、相手の「頭の中の映像」をイメージし、どのような非言語情報を示しているかだけで不審点を探します。それによって、何をどこまで詳しく見せてもらうか判断するのです。
繁華街で職質する車は、不良が好みそうな色、ナンバー、車種、内装、車内の飾り、香料などで選びます。彼のシルバーのベンツは、不良が好みそうな色、内装ではありませんでした。本件は詐欺事件ですから、余分な事件や証拠品を増やしたくないという思いも少しはありました。ただでさえ、業務負担の多い捜査本部でしたから。寝不足で家にもなかなか帰れない日々が続いていましたが、容赦なく悪を懲らしめることを思うと、車内の捜索にも自ずと神経が集中しました。
発見は、麻布界隈の不良より、もっと容易い場所にありました。私は鑑識用の伸縮式白手袋を両手にはめて、運転席や助手席のマットの下、サンバイザー、コンソールボックス、それから後部座席のシートの隙間まで隈なく捜索し、最後のトランクへたどり着きました。
私「トランクの中、確認しますね」
職質では、任意性を担保するために、一点、一点、相手の承諾を得ながら進めるため、私はいつもの癖で自然とそう言いました。被疑者は無言でうなずきます。
トランクルームを開け、目ぼしいものは特にありませんでした。マットをめくると、底にはスペアタイヤが収納されているはずです。めくりました。紙袋の中にオレンジ色の注射器が20本ほど隠匿されていました。鑑定によると、微量の白色粉末が付着していたそうです。
私「これは?」
さっきまで余裕を見せていた被疑者は黙っていました。トランクを覗いていた私は屈んだ格好のまま彼の顔を見上げます。口が開き、歯が剥き出しになり、下からライトが当たっているかのような錯覚を起こしました。笑顔の仮面が剥がれ、般若の貌が見えた瞬間でした。
「このガキ、シャブまで見つけやがって……」
心の声が聞こえたようでした。
ここで「刑事訴訟法第218条 令状による差押え・記録命令付差押え・捜索・検証」と「覚醒剤取締法第14条 所持の禁止、第19条 使用の禁止、第41条の2 刑罰、第41条の3 刑罰」の条文をチェックしておきましょう。
刑事訴訟法
第218条(令状による差押え・記録命令付差押え・捜索・検証)
検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証をすることができる。この場合において、身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。
覚醒剤取締法
第14条(所持の禁止)
覚醒剤製造業者、覚醒剤施用機関の開設者及び管理者、覚醒剤施用機関において診療に従事する医師、覚醒剤研究者並びに覚醒剤施用機関において診療に従事する医師又は覚醒剤研究者から施用のため交付を受けた者のほかは、何人も、覚醒剤を所持してはならない。
第19条(使用の禁止)
次に掲げる場合のほかは、何人も、覚醒剤を使用してはならない。
一 覚醒剤製造業者が製造のため使用する場合
二 覚醒剤施用機関において診療に従事する医師又は覚醒剤研究者が施用する場合
三 覚醒剤研究者が研究のため使用する場合
四 覚醒剤施用機関において診療に従事する医師又は覚醒剤研究者から施用のため交付を受けた者が施用する場合
五 法令に基づいてする行為につき使用する場合
第41条の2(刑罰)
覚醒剤を、みだりに、所持し、譲り渡し、又は譲り受けた者(第42条第五号に該当する者を除く。)は、十年以下の懲役に処する。
第41条の3(刑罰)
次の各号の一に該当する者は、十年以下の懲役に処する。
一 第19条(使用の禁止)の規定に違反した者
二~四(略)
非言語情報の解読
彼を逮捕・留置してからわかったことですが、実は指の欠損を隠して義指を装着していました(暴力団との関係はなく、事故で指を失ったと供述していた、と記憶しています)。ですから、指を庇う素振りやシャツの下の注射痕などを見れば、私ももう少し確信を持って捜索できていたかもしれません。
いずれにせよ、覚醒剤の所持・使用で勾留が延び、本件詐欺事件と別件の覚醒剤取締法違反被疑事件も立件することとなりました。詐取金の一部が覚醒剤の購入費用に充てられているとなれば、被疑者は本件の取調べに対して抗弁が立ちづらく、裁判官の心証も悪くなります。我々は有利に事を運ぶことができました。
先の例を見るとおり、およそ人を見るには「目に見えるもの(外見)」だけでは全く不充分です。では、何に注目すれば良いのでしょうか?
私たち、日常のビジネスでは、それは言行が一致するかどうか、表舞台と日常生活の素行の間に「歪み」がないかどうかに尽きるでしょう。その点において、言葉に意味はありません。考えてみてください。詐欺師は皆、「外見と言葉で人を騙す」のですから。
もっと深掘りしたい方は、以下の非言語情報に着目してください。
・声のトーン、間、波長、
・表情、眼球、しぐさ、手先、足先
さらに
・衣服や所持品の細部、裏側、内側
人は、他人から理解されたい欲求を持ち、どんなに隠しても本当の情報を「常に発信し続けている」のです。
消せない匂い
詐欺師にも不良にも「消せない匂い」があります。私たち(危機管理・BCP担当者の皆さん)は、「既知の知(私は何を知っているか)」を手掛かりに、「未知の知(私は何を知らないか)」や「未知の未知(何を知らなければならないか)」の領域に足を踏み入れなければなりません。
そのために、必要なのは相手の頭の中にある「映像」(真の課題)を覗き見る「視点」です。私はそれを「インサイト(洞察力)」と呼んでいます。相手が隠している情報や相手自身も気づいていない「隠された情報」がどこかにあるかもしれない。「あるもの」だけでなく、「ないもの」を探すこと。それは、相手の規範、信仰や世界観、ルーツ、行動原理の場合もあり、予測された既存の状況を一変させる可能性があります。
探索心得
医療の世界では、患者さんの訴えである「陽性所見」に対して、「陰性所見」と呼ばれる言葉があるそうです。「この症状が起こっている(陽性所見)のに、なぜこの症状は起こっていない(陰性所見)のだろうか?もしかして、他に〇〇の可能性はないだろうか?」とシャーロック・ホームズが事件を推理するがごとく、診断するのだそうです。
先ほどの「未知の未知」のように「存在しないもの」は、「存在するもの」より影響力を持つことがあります。特に、私たちリスク対策の分野では。
ここで、「インサイト(洞察力)」を身につけるための心得を一つご紹介しましょう。それは、日本の警察制度を作った川路利良が「警察官の心得」として書き遺した『警察手眼』という書籍の中にあります。
「探索心得」 捜査の心得
「探索の道微妙の地位に至っては聲無きに聞き形無きに見るが如き無聲無形の際に感覚せざるを得ざる也」 捜査が複雑困難なときは、声なきに聞き、形なきに見るかのように、無声無形であっても感覚を研ぎ澄まさなくてはならない
この「声なきに聞き、形なきに見る」という言葉は、「未知の未知」「存在しないもの」を見出す「インサイト(洞察力)」を養ってくれますので、ぜひ覚えておいてください。
詐欺師と不良の広域ジョイント・ベンチャー
前回の記事(地面師の生態)でお話ししたとおり、組織詐欺と組織暴力は互いに手を取り合う関係にあります。振り込め詐欺も同じです。地面師グループにも暴力団フロント企業の代表が後ろ盾となったり、案件毎に各勢力が参画し、組の若い衆が派遣されていました。恐喝などで事件を起こすと捕まりやすいが、詐欺など経済犯罪で「シノギ」を得ることは金額も大きいうえに、足が付きにくいからです。
詐欺師は、ラウンジにいる
詐欺師と不良が好む場所をお教えしましょう。それは、高級ホテルのラウンジです。飲み物の料金も高く、おそらく自分に権威や高級感、影響力を持たせて「商談」を有利に進めたいのでしょう。
ある詐欺事件で「現場ができる(恐喝未遂や詐欺未遂などで現行犯逮捕できる状況)」と一報が入りました。私たち捜査員は、無線とカメラ、マイク、レコーダーなど資器材とともに臨場し、それぞれ配置に付きました。結果、犯人らは現場に現れなかったのですが、それ以来、今でもホテルのラウンジに立ち寄ると、つい辺りを見回してしまう癖が抜けません。
振り込めコールセンター
詐欺師と不良と言えば、何といっても振り込め詐欺です。私がある振り込め詐欺事件の捜査本部で都心のオフィス街へガサ(捜索差押え)に向かったことがありました。確か、投資や融資名目の振り込め詐欺グループだったと記憶しています。
振り込め詐欺の事務所には驚愕しました。「コールセンター」です。壁に白い張り紙があり、「売り上げ目標」が大きな字で書かれています。グレーのオフィス机が並び、電話機の傍らには「顧客リスト(名簿屋から入手したもの)」や「商材」を説明するために「ファイリングされた資料」が並んでいます。
振り込め詐欺グループ相応に、掛け子(いわゆるテレフォン・アポインターのような役割)の人相は確かに悪かったのですが、「顧客(被害者)」に語気鋭く凄んでいては当然、詐欺の「商談」にはなりませんから、営業マンが電話を掛けるような「セールストーク」を磨いていたのでしょう。
ザ・コンサルタント
著名人の詐欺師です。詐欺師として著名であるという意味ではありません。著者、講演家、コーチ、カウンセラー、コンサルタントの中には、詐欺師が一定数、います。充分、注意していただきたい。
私が麻布署で告訴相談を受理していた時、ある中小企業の社長さんが著名なコンサルタントに数千万円を騙し取られたと来所しました。その人物は本もたくさん出版し、当時、メディアの露出も比較的多かったと記憶しています。
事件の経緯や詳細は当然、お話しできないのですが、私が皆さんにお伝えしたいことは、著名人や専門家、巨大組織のエグゼクティブ層など「権威」を持つ人物ほど、要注意です。プレデター、ナルシスト、サイコパス的な人物が多く、パワハラ、セクハラ、不貞、投機に快感を覚え、もっと「酒食」と「性」を充足させようと、「金」(遊興費)を得る目的で、職場や客先で詐欺や横領などの不正を働くおそれがあります。私はそういう事件を企業や組織、もちろん警察の内部でも、嫌と言うほど、この眼で見ました。
「酒食」「金」「性」は3点セットです。「酒食」と「性」自体は、犯罪・事件を構成しないものもありますが、「金」は「酒食」と「性」を繋ぐ存在で、詐欺、業務上横領、特別背任、脱税、贈収賄、選挙違反、不正会計などの企業犯罪、経済犯罪、知能犯罪の動機、行動原理となる危険があります。その人物が「酒食」と「性」に抱いた「感情」が「(金)勘定」行動の引き金となるのです。
特に言葉を専業的に扱う「著者」は、自我が肥大し、サイコ・ロジック(一般人とは異なる複合的な思考パターン)で物事を決定するので、人格的に「何かを見失った」人も多いのが現実です。「声なきに聞き、形なきに見る」を思い出し、しっかりと素行(裏の貌)をチェックしましょう。同じく著者である私自身への自戒も込めてお伝えします。
クロサギ
麻布署刑事課で宿直勤務をしていた時、ゴタ(けんか・口論など「ごたつく」こと)で、二人の男性が同行されて来ました。聞くと、40代くらいで茶色いスーツを着た細身の男性が、「あの男に騙された!」と憤っています。もう一人は、50代くらいで黒っぽいスーツを着て、眼鏡を掛けたやや小柄な男性でした。それぞれの当事者を分けて、取調べ室で事情を聴取しました。どうやら、お互いに詐欺の犯歴があり、同業同士で喰い合っているようでした。騙そうとしたつもりが、騙されていた、ということなのかもしれません。
「おれを訴えるなら、おれもあんたの所業をバラすぞ」
黒スーツの男から無言の圧力を感じた「被害者」と名乗る詐欺師は、「痛くもない腹」ではなく、「痛い腹」を探られるのを嫌がり、被害申告することを諦めました。詐欺師を騙す「クロサギ」の方が一枚上手だったようです。取調べ室で、茶目っ気たっぷりに舌を出して笑っていた様子を見て、我々刑事課員も気勢を削がれました。
数字も、嘘をつく
プレゼンで人を説得したければ、数字を使うのが一番です。人を騙すのも、数字です。数字を入れるだけで論理的に見えて来るから、不思議です。
There are three kinds of lies: lies, damned lies, and statistics.
「3種類の嘘がある:嘘、忌々しい嘘、そして統計」
アメリカの作家、マーク・トウェイン(Mark Twain)の言葉です。
私は警察で犯罪統計や犯罪抑止対策の仕事もしてきたし、知能犯捜査はあらゆる行動データの解析が、裏付け捜査の肝です。ですから、データの取り扱いには慣れている方ですが、実際のところ、データや数字の信ぴょう性がどれくらいあるのか懐疑的です。また、脱税、贈収賄、選挙違反、不正会計のほか、業務上横領、特別背任など企業犯罪、経済犯罪、知能犯罪はすべて、お金と数字の「マジック」です。同様に、SNSでやたら数字を誇張する人物もスパムアカウントの疑いがあります。
一般に数字は、過去のデータであって、未来が必ずそうなるとは限りません。何か新しいものを生み出そうとするビジネスパーソンやクリエイターは、数字を考えない方が創造的になれるという意見もあります。自分の脳で考えて、自己の身体感覚をもっと信じるべきなのでしょう。なお私自身のプレゼンでは、数字、データは聞き手に対して、見ず知らずの私を信用していただくための説得材料として使っていて、決して数字が重要なポイントなのではありません。
照星・照門を合わせる質問
照星・照門とはけん銃の照準装置です。詐欺師に波長を合わせながら、真贋を見究めるための質問方法をご紹介します。
2011年9月8日、私は東京都小平市にある警察庁の関東管区警察学校にいました。警部補任用科第99期第7学級(刑事課程)で現場対応訓練(人質立てこもり事件説得交渉訓練)のメインネゴシエータ(交渉官)を務めました。
その時に学んだのが、アメリカFBIや日本の警察庁、イギリスのロンドン警視庁、ヨーロッパの各警察組織が採用しているアクティブ・リスニング・スキル(積極的聴取技術)と呼ばれる人質立てこもり事件説得交渉術です。臨床心理学のカウンセリング技術、セールステクニックから派生したものだと言われています。
今回は、詐欺師の人間性を見破るための質問方法として、Open Question(開放的質問)をご紹介します。Open Question(開放的質問)は、WHAT(何)、HOW(どのように)を中心に、質問を投げかけます。WHO(誰)やWHEN(いつ)、WHERE(どこで)も重要ですが、話が単調になりやすいため、WHAT(何)、HOW(どのように)を主に使います。
例えば
「一体、どうしたら私はそれが真実だと分かるのでしょうか?」
などです。
WHY(なぜ)は、とても重要なのですが、相手を非難するニュアンスを持ちやすいので、一般的には注意が必要です。相手にとって好意的に受け取れる場合のみ使い、「WHAT(何が)そうさせたのですか?」などと言い換えます。
しかし、今回、私がご提案するのは、詐欺師や疑わしい人物に対して、敢えて、WHY(なぜ)の質問を織り交ぜながら、相手がどのような「反応」を示すのか、その非言語情報を解読することです。これは、相手に対して、「公正さ」や「敬意」を抱きながら質問することが重要です。
咄嗟に「悲しみ・怒り・恐怖・嫌悪」など、ネガティブな感情を表現した時の一瞬の表情、しぐさ、声を捉えてみましょう。相手は不快感を覚えて、眉間に皺を寄せたり、手で身体のどこかを摩ったりする「なだめ行動」を起こすかもしれません。
お互い、自分自身が子どもだったときのエピソードを質問してみると、一般的には打ち解けやすいと言われています。しかし、親子関係に愛着の深い溝がある愛着障害などの場合、「悲しみ・怒り・恐怖・嫌悪」など、ネガティブな感情表現をするようです。愛着の問題は、社会に対する「恨み・辛み」となって、犯行の撃鉄を起こさせる場合もあります。ご参考になさってください。
月には太陽が眩しくて……
以前に、大型消費者詐欺事件の犯人が逮捕前、テレビ局からインタビューされている映像を見たことがあります。その詐欺師は話しながら、終始、両目がほとんど開いていませんでした。
両目を閉じたままだったり、片目を閉じている、隠している人物は、お天道様が眩し過ぎて、目を開けていられないのではないかと思います。会話の最中、不自然に瞬きをしたり、眼球が高速でキョロキョロと動く人物は、その何気ない会話にストレスを感じている可能性があるので、注意してください。
馬鹿を見るのは、正直者か
警察学校を卒業した私は、2003年1月21日、板橋警察署へ卒業配置されました。最初の勤務は、全長約800メートル、1日約2万人が利用すると言われるアーケード商店街「ハッピーロード大山」を管轄する大山町交番でした。
2003年11月9日、第43回衆議院議員総選挙がありました。私は地域課交番勤務から、選挙違反取締本部に吸い上げられました。当時の板橋署刑事課知能犯捜査係の係長が捜査二課出身で、選挙取締に力を入れていたので、各係からなるべく若くて実力のありそうな人物を派遣して欲しいと要望があったのです。
通常、各署の選挙に対する取り組みはまちまちですが、エース級の課員を派遣してしまうと、自分の課の実績が危うくなるので、大抵は各課、無難な人材を派遣することになります。私は警察官になる前にしばらくフリーターをしていたので、当時すでに27歳でしたが、まだ交番勤務1年目だったため、地域課の係長から推薦されたようです。捜査が楽しくて、がむしゃらに働いた私は、選挙違反事件化の端緒を得ることとなりました。
私が知能犯刑事となる第一歩でした。もともと私は刑事志望でも全くなく、英語と中国語が多少できたので、語学を生かした仕事をしたいとしか考えていませんでした。自分でも全く知らなかった知能犯刑事の資質に目覚めたのです。
選挙違反取締本部で、当時の知能犯係長に捜査のことを色々と教えてもらいました。個性的で、独特の魅力を持つ人でした。普通では考えられないような捜査をやってのけ、検挙件数・ホシ数(検挙人数)も多く、一緒に仕事するのは大変でしたが、学んだことも多かったです。
「女誑しや男誑しじゃない。人誑しになれ」
「刑事は犯罪者の先を行く。奴らより先に(新たな)手口を考え付かないとな」
中でも印象に残っている話があります。
「いいか、榎本。正直者が馬鹿を見るような世の中にしちゃダメなんだ。知能犯(捜査)はそのためにある」
その後、私は研修で警察学校に一度、戻ることとなり、後ろ髪を引かれる思いで選挙違反取締本部を後にしました。警察学校から戻った後、板橋署で刑事課に入りたかったのですが、特別機動隊に警備派遣されている間、巡査部長昇任試験に合格してしまい、警務課という総務のポジションで1年近く、犯罪統計の仕事をやりました。
2005年7月14日、巡査部長として麻布警察署へ異動し、六本木交番の主任となりました。パトカー勤務や留置場の看守を経て、2006年10月31日にようやく麻布署刑事課で知能犯捜査係の主任となりました。その1か月後に、板橋署から捜査二課へ戻った先ほどの上司に引っ張られる形で、前回の記事でお話しした地面師詐欺捜査本部に派遣となったのです。
以上、今回は「どのように詐欺師を見分ければ良いのか?~詐欺師の見分け方」について、「トリックスター あご師」「笑顔の仮面、般若の貌」「非言語情報の解読」「消せない匂い」「探索心得」「詐欺師と不良の広域ジョイント・ベンチャー」「詐欺師は、ラウンジにいる」「振り込めコールセンター」「ザ・コンサルタント」「クロサギ」「数字も、嘘をつく」「照星・照門を合わせる質問」「月には太陽が眩しくて……」「馬鹿を見るのは、正直者か」を私の記憶を辿りながらお話ししました。
次回は「サイバー犯罪」「ICTと神経発達」「元刑事が見た神経発達障害」「出版社に対するインターネット名誉毀損事件」をテーマにお話しする予定です。
危機管理・BCPの担当者さまから、ご質問、ご相談やご意見などお待ちしております。
参考文献
『トリックスター群像』井波律子=著(筑摩書房)
『神話の法則』クリストファー・ボグラー=著(ストーリーアーツ&サイエンス研究所)
『英雄の旅 ヒーローズ・ジャーニー』キャロル・S・ピアソン=著(実務教育出版)
『観察力を磨く 名画読解』エイミー・E・ハーマン=著(早川書房)
『逆転交渉術』クリス・ヴォス+タール・ラズ=著(早川書房)
『NYPD No.1ネゴシエーター 最強の交渉術』ドミニク・J・ミシーノ=著(フォレスト出版)
『ネゴシエイター』ベン・ロペス=著(柏書房)
『警察手眼』川路利良=著
『悪質クレーマー・反社会的勢力対応実務マニュアル』藤川元+市民と企業のリスク問題研究会=編(民事法研究会)
『犯罪者はどこに目をつけているか』清永賢二+清永奈穂=著(新潮社)
『営業と詐欺のあいだ』坂口孝則=著(幻冬舎)
『世界史を変えた詐欺師たち』東谷暁=著(文藝春秋)
『サイコパス』中野信子=著(文藝春秋)
『顔は口ほどに嘘をつく』ポール・エクマン=著(河出書房新社)
『FBIプロファイラーが教える「危ない人」の見分け方』ジョー・ナヴァロ+トニ・シアラ・ポインター=著(河出書房新社)
『FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学』ジョー・ナヴァロ+マーヴィン・カーリンズ=著(河出書房新社)
『FBI捜査官が教える「第一印象」の心理学』ジョー・ナヴァロ+トニ・シアラ・ポインター=著(河出書房新社)
『FBI捜査官が教える「しぐさ」の実践解読辞典407』ジョー・ナヴァロ=著(河出書房新社)
不正を暴く
トリックスター列伝
企業犯罪VS知能犯刑事
麻布署6年の研究と発見 第7回
地面師詐欺捜査本部
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