榎本澄雄です。
おはようございます!
8月17日、日曜日。
お盆休みいかがお過ごしですか?
不定期で全9話アップします。
どうぞお楽しみにお待ちください。
あらすじはこちら。
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第1話はこちらから。
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第2話はこちらから。
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第2話「十百華はハンドルを握りながら、課長の話を思い出していた」
2019年に2030年の移民事件を予測した『刑事とミツバチ』
第3話はこちらから。
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第4話はこちらから。
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第5話はこちらから。
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第6話はこちらから。
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第7話はこちらから。
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古いスナック
〈オレンヂ★ロード〉
2019年に内務省を予測した
『刑事とミツバチ』第8話
8
その店は、中野駅北口の路地裏にあった。看板は〈オレンヂ★ロード〉と白抜きで描かれている。古いスナックのドアを開けると、カランカランと小さく鐘の音がした。
「あら、いらっしゃい。待ってたわよ。さっきまで弁護士さんが来てたんだけど。いい人見つかった?」
カウンターの向こう側で〈対策官〉が待っていた。髪をオレンジに染めた小柄な女性だ。今日は、白い水玉模様の青いワンピースを着ている。
「いえ、まだ」
紹介したい人って、そう言うことだったのか。十百華は苦笑した。
店内には昭和歌謡が流れている。照明は全体的に落ち着いた感じで、暖色系のトーンが印象的な内装だ。
「何にする?ビール?」
〈対策官〉は、キッチンの冷蔵庫から冷えたグラスを取り出した。
「すみません、〈対策官〉」
十百華は辺りに他の客がいないことを確認してそう呼んだ。
「なぁに?」
〈対策官〉はビールサーバーから泡を注ぎ足しながら、小声で答えた。
「席はここでいいのか?」
三千三郎がカウンターの白いスツールに座った。十百華もその隣に座る。
「〈対策官〉、この人、同僚の椿警部補です」
「あら、そう。お久しぶり」
三千三郎は訝しげに会釈した。
「あなた、色々ご苦労なさったのね」
〈対策官〉は、占い師のように語り始めた。
「あなたと会うのは2回目よね」
〈対策官〉は三千三郎の顔をまじまじと見ながら、声を掛けた。
「はい、前に一度、内務省で」
十百華が答えた。
「いえ、あなたのことよ」
「え、そうなんですか?」
三千三郎は黙ったまま何も答えなかった。〈対策官〉と面識があるのだろうか。しばらく居心地の悪い沈黙が流れた。
チリン。対策官のスマートウォッチから通知音がした。
「あら、やだ。幼馴染みが中野に来てるって。あなたたち、ちょっとの間だけ店番頼めない?」
「え、ああわかりました。何かあったらすぐに電話しますから」
どうせ、平日のこの時間に客は来ないだろう。十百華は二つ返事で引き受けた。
「なあ、あのばあさん、何者なんだ?」
流石に気になったらしく、三千三郎が十百華に尋ねた。
「〈対策官〉と、私たちは呼んでいます」
「内務省の人間か?」
「そう、聞いています。私もお会いするのは2回めで」
「お前が〈ミツバチ〉なら、あのばあさんは〈女王蜂〉か。あの、何でもお見通しよ、って感じ。気に入らないな」
「あら、そうですか?」
「もし、もしも、だ。本当にあのばあさんが何でもお見通しなら……」
「オレたちが、いま旅のどの辺にいるのか、聞いてみたいもんだ。そして、これから何処へ向かうのかも」
十百華は珍しく熱く語る三千三郎を見つめていた。
「とりあえず、乾杯しませんか?」
十百華はビールグラスを掲げた。
小一時間くらい経っただろうか。
十百華と三千三郎は、店を貸切状態で、ビールをおかわりしたり、〈対策官〉が作ってくれた鶏の手羽元甘辛煮をいただいていた。
「ハイボール、飲みますか?」
キッチンのシンクで手を洗いながら聞いた。袖を捲くらなかったので、シャツが濡れてしまった。
「濃いめで頼む」
三千三郎が頷いた。ウイスキーと炭酸水をカウンターに置いて、アイスペールに氷を用意した。
「これ、絞ってもらえますか?」
十百華は冷蔵庫のレモンを半分に切って、三千三郎に投げた。
「おっと」
三千三郎はレモンを捕り損ねて床に落とした。
「あれ、椿さん、酔っ払っちゃったんですか?」
凶悪犯人を取り押さえた三千三郎とは別人のようで、笑ってしまった。三千三郎は何事もなかったかのように、新しいレモンを絞っている。
「なかなか、帰って来ないですね」
「そうだな」
酒のせいか、犯人を検挙したからか、三千三郎はかなりご機嫌のようだ。
「ところで、椿さんて警察辞めた後、しばらく何をされてたんですか?」
三千三郎はハイボールのジョッキを片手に、しばらく天井を見上げていた。瞼を閉じ、その瞼の奥で眼球がピクピクと動いているのが見えた。
十百華は〈フラッシュバック〉と言う言葉を思い出した。
学生時代、人間関係に悩んで、心理学や精神医学の本を読み漁った時期があった。テレビの仕事を辞めようとしていた時期、カウンセラーになろうかと考えたこともあった。
三千三郎を最初に保護室で見た時から、何となく気になっていたのだ。
しばらく沈黙が続いた後、三千三郎がようやく口を開いた。
「色々やって来た……」
カランカラン。
「あら、ごめんなさい。遅くなって!」
〈対策官〉が帰って来た。同年代くらいの友人たちを連れている。
「この子たち、あたしの幼馴染みなの。今日はみんなで飲まない?」
〈対策官〉はそう言って、「指令は明日、伝えるから」と十百華の耳元で囁いた。
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