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古いスナック

〈オレンヂ★ロード〉

2019年に内務省を予測した

『刑事とミツバチ』第8話

· 古い,スナック,オレンヂ,ロード,内務省

榎本澄雄です。

おはようございます!

8月17日、日曜日。

お盆休みいかがお過ごしですか?

私が2019年11月末日

小説推理新人賞に応募した作品を紹介します。

https://fr.futabasha.co.jp/special/suiri_award/

不定期で全9話アップします。

どうぞお楽しみにお待ちください。

あらすじはこちら。

👇

未公開作品『刑事とミツバチ』あらすじ

2019年の元刑事が2030年の治安悪化を予測した短編警察小説​

https://www.kibiinc.co/blog/2024-10-2

第1話はこちらから。

👇

第1話「警察庁が内務省となって、三年が経った」

『刑事とミツバチ』2019年小説推理新人賞応募作品

https://www.kibiinc.co/blog/2024-10-13-2

第2話はこちらから。

👇

第2話「十百華はハンドルを握りながら、課長の話を思い出していた」

2019年に2030年の移民事件を予測した『刑事とミツバチ』

https://www.kibiinc.co/blog/2024-10-17

第3話はこちらから。

👇

『刑事とミツバチ』第3話「えっと、この辺ですよね?」

2019年に2030年の警察官不足を描写した短編小説

https://www.kibiinc.co/blog/2024-12-1

第4話はこちらから。

👇

2019年に日本人と移民の対立を描いた短編小説

『刑事とミツバチ』第4話

https://www.kibiinc.co/blog/2025-1-29

第5話はこちらから。

👇

キャベツ畑で不審者を追う

『刑事とミツバチ』第5話

https://www.kibiinc.co/blog/2025-2-28

第6話はこちらから。

👇

「予備警察官」が外国人犯罪者と対話​

2019年に日本人と移民の対立を描いた『刑事とミツバチ』第6話​

https://www.kibiinc.co/blog/2025-8-9

第7話はこちらから。

👇

密入国した民族闘争活動家を逮捕

2019年に2025年の混乱を予測した『刑事とミツバチ』第7話​

https://www.kibiinc.co/blog/2025-8-14

古いスナック

〈オレンヂ★ロード〉

2019年に内務省を予測した

『刑事とミツバチ』第8話

Section image

 

その店は、中野駅北口の路地裏にあった。看板は〈オレンヂ★ロード〉と白抜きで描かれている。古いスナックのドアを開けると、カランカランと小さく鐘の音がした。

 

「あら、いらっしゃい。待ってたわよ。さっきまで弁護士さんが来てたんだけど。いい人見つかった?」

 

カウンターの向こう側で〈対策官〉が待っていた。髪をオレンジに染めた小柄な女性だ。今日は、白い水玉模様の青いワンピースを着ている。

 

「いえ、まだ」

 

紹介したい人って、そう言うことだったのか。十百華は苦笑した。

 

店内には昭和歌謡が流れている。照明は全体的に落ち着いた感じで、暖色系のトーンが印象的な内装だ。

 

「何にする?ビール?」

 

〈対策官〉は、キッチンの冷蔵庫から冷えたグラスを取り出した。

 

「すみません、〈対策官〉」

 

十百華は辺りに他の客がいないことを確認してそう呼んだ。

 

「なぁに?」

 

〈対策官〉はビールサーバーから泡を注ぎ足しながら、小声で答えた。

 

「席はここでいいのか?」

 

三千三郎がカウンターの白いスツールに座った。十百華もその隣に座る。

 

「〈対策官〉、この人、同僚の椿警部補です」

 

「あら、そう。お久しぶり」

 

三千三郎は訝しげに会釈した。

 

「あなた、色々ご苦労なさったのね」

 

〈対策官〉は、占い師のように語り始めた。

 

「あなたと会うのは2回目よね」

 

〈対策官〉は三千三郎の顔をまじまじと見ながら、声を掛けた。

 

「はい、前に一度、内務省で」

 

十百華が答えた。

 

「いえ、あなたのことよ」

 

「え、そうなんですか?」

 

三千三郎は黙ったまま何も答えなかった。〈対策官〉と面識があるのだろうか。しばらく居心地の悪い沈黙が流れた。

 

チリン。対策官のスマートウォッチから通知音がした。

 

「あら、やだ。幼馴染みが中野に来てるって。あなたたち、ちょっとの間だけ店番頼めない?」

 

「え、ああわかりました。何かあったらすぐに電話しますから」

 

どうせ、平日のこの時間に客は来ないだろう。十百華は二つ返事で引き受けた。

 

「なあ、あのばあさん、何者なんだ?」

 

流石に気になったらしく、三千三郎が十百華に尋ねた。

 

「〈対策官〉と、私たちは呼んでいます」

 

「内務省の人間か?」

 

「そう、聞いています。私もお会いするのは2回めで」

 

「お前が〈ミツバチ〉なら、あのばあさんは〈女王蜂〉か。あの、何でもお見通しよ、って感じ。気に入らないな」

 

「あら、そうですか?」

 

「もし、もしも、だ。本当にあのばあさんが何でもお見通しなら……」

 

「オレたちが、いま旅のどの辺にいるのか、聞いてみたいもんだ。そして、これから何処へ向かうのかも」

 

十百華は珍しく熱く語る三千三郎を見つめていた。

 

「とりあえず、乾杯しませんか?」

 

十百華はビールグラスを掲げた。

小一時間くらい経っただろうか。

 

十百華と三千三郎は、店を貸切状態で、ビールをおかわりしたり、〈対策官〉が作ってくれた鶏の手羽元甘辛煮をいただいていた。

 

「ハイボール、飲みますか?」

 

キッチンのシンクで手を洗いながら聞いた。袖を捲くらなかったので、シャツが濡れてしまった。

 

「濃いめで頼む」

 

三千三郎が頷いた。ウイスキーと炭酸水をカウンターに置いて、アイスペールに氷を用意した。

 

「これ、絞ってもらえますか?」

 

十百華は冷蔵庫のレモンを半分に切って、三千三郎に投げた。

 

「おっと」

三千三郎はレモンを捕り損ねて床に落とした。

 

「あれ、椿さん、酔っ払っちゃったんですか?」

 

凶悪犯人を取り押さえた三千三郎とは別人のようで、笑ってしまった。三千三郎は何事もなかったかのように、新しいレモンを絞っている。

 

「なかなか、帰って来ないですね」

 

「そうだな」

 

酒のせいか、犯人を検挙したからか、三千三郎はかなりご機嫌のようだ。

 

「ところで、椿さんて警察辞めた後、しばらく何をされてたんですか?」

 

三千三郎はハイボールのジョッキを片手に、しばらく天井を見上げていた。瞼を閉じ、その瞼の奥で眼球がピクピクと動いているのが見えた。

 

十百華は〈フラッシュバック〉と言う言葉を思い出した。

 

学生時代、人間関係に悩んで、心理学や精神医学の本を読み漁った時期があった。テレビの仕事を辞めようとしていた時期、カウンセラーになろうかと考えたこともあった。

 

三千三郎を最初に保護室で見た時から、何となく気になっていたのだ。

 

しばらく沈黙が続いた後、三千三郎がようやく口を開いた。

 

「色々やって来た……」

 

カランカラン。

 

「あら、ごめんなさい。遅くなって!」

 

〈対策官〉が帰って来た。同年代くらいの友人たちを連れている。

 

「この子たち、あたしの幼馴染みなの。今日はみんなで飲まない?」

 

〈対策官〉はそう言って、「指令は明日、伝えるから」と十百華の耳元で囁いた。

不定期で全9話アップします。

どうぞお楽しみにお待ちください。

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