こんばんは!
榎本澄雄です。
8月14日、木曜日。
明日は終戦の日です。
不定期で全9話アップします。
どうぞお楽しみにお待ちください。
あらすじはこちら。
👇
第1話はこちらから。
👇
第2話はこちらから。
👇
第2話「十百華はハンドルを握りながら、課長の話を思い出していた」
2019年に2030年の移民事件を予測した『刑事とミツバチ』
第3話はこちらから。
👇
第4話はこちらから。
👇
第5話はこちらから。
👇
第6話はこちらから。
👇
密入国した
民族闘争活動家を逮捕
2019年に2025年の混乱を予測した
『刑事とミツバチ』第7話
7
「椿さん、メンタリストだったんですね」
「バカ言え。あんな詐欺師どもと一緒にするな」
十百華と三千三郎がやっと一息つけたのは、パトカーの中だった。制服警察官の運転で小泉署へ向かう。
「あ、違うんですか。てっきり催眠術かと」
「本を書いたり、テレビに出てる詐欺師は山ほどいる」
「ふーん、そんなもんなんですね。ところで、あの会話って本気だったんですか?犯人との話」
「またうるさいのが始まったな。これからお前のことを〈ミツバチ〉って呼んでやろうか?」
「なんですか、それ!」
十百華は頰を膨らませた。
事件の特殊性を協議して、引致先は管轄の小泉署となった。立ち回り先とアジトの捜索を進めるのに土地勘が必要と言うのが主な理由だ。今後、この事件は小泉署が元立ちで、蔵網署と共同捜査本部が設置されるそうだ。
小泉署では〈新件送致〉の手続きが続いている。逮捕手続書、実況見分の立会い、参考人調書、放置された車に対する捜索差押許可状の請求、被害者の診療と供述調書、それからマスコミ対応まで……。
蔵網署から大石刑事課長が来て、取調室の外で待機していた。十百華が逮捕者として不利にならないよう、小泉署の刑事課長に挨拶に来てくれたようだ。
隣の取調室にいる三千三郎はどうしているだろうか。飲酒検知だけは勘弁してもらいたいと思い、一人、くすりと笑った。
「課長、出ました!」
取調室の外で捜査員の声がした。犯人の指紋から、身元が割れた報せだった。
緊急照会の結果から、男は本国でマークされた民族闘争の活動家と判明した。他人名義の偽造旅券で密入国し、都内で飲食店を経営しながら独立運動の資金調達と協力者の獲得工作をしていたらしい。防衛省の動きが早かったのはそういう事情なのだろう。
取調室の透視鏡で帽子を脱いだ顔を改めて見ると、銀の総髪で、頭頂部は禿げ上がっていた。取調室ではしきりに「椿と話をさせろ」と供述しているそうだ。
外事二課は地下銀行事件を捜査中とのことだ。領事館からもアタッシェが飛んで来た。彼の身柄と刑事訴訟の行方は、外交カードの1枚になるのかもしれない。
「で、公安は美味しいとこだけ持ってく訳か」
「椿さん、聞こえますよ」
十百華は小声で言った。
「いいんだよ。聞こえるように言ってんだから」
十百華と三千三郎は、送致書類の確認待ちで小泉署の応接室にいた。
「おい、椿。身柄は、外二(ソトニ)が持ってくってよ」
大石課長がコーヒー片手に声を掛けた。
「〈新件〉の後にってことか?捜査本部は?」
「いま、署長間で調整中だ。だが向こうの所属長は外事二課長だからな」
「キャリアのぼんぼんか」
三千三郎はそう言って、十百華の方を見た。
「いや、私も内務省から来ましたけど、そういうのはおかしいと思いますよ。この事件は刑事部がやるべきです!」
「ま、せいぜい刑事部と公安部で〈空中戦〉をやればいいさ。オレらが捜査する訳じゃなし」
「え!そうなんですか?」
「バカ、オレらは逮捕者だぞ。ホシの調べなんてやらねえよ。供述の公平性が疑われるだろ。今後の裏付けも〈強行〉がメインだ。逮捕事実は、人質立てこもり事件だからな」
「でも椿さん。私、いまいち理解できないんです。なんであんなに短絡的な事件を起こしたんでしょうか?」
「立てこもったのは、行き掛かりさ。本国に強制送還されたら、拷問死するんだろうな。だったら日本の警察と遊んでた方がまだ安全なのさ。国や法律が違うってのはそう言うことだ」
十百華と三千三郎が解放されたのは、深夜のことだった。何かあったら、すぐ戻って来るとの条件つきで。
蔵網署から捜査員が迎えに来て、駐車場に置いたままのアリオンを持って来てくれた。
小泉署の外では報道関係者が大勢、待機している。顔見知りの記者に見つからないよう、アリオンは署の護送口付近に付けてもらい、門を閉めてもらった。
「課長、どうします?署に泊まりますか?」
運転席の捜査員が聞いた。
「そうだな、まず八坂係長を送ってやってくれないか。家、どこだっけ?」
大石課長が隣の十百華に尋ねた。
「私の家は……」
言い掛けて、ちょうど十百華の携帯が鳴った。公用携帯ではなく、私用の方だった。
表示には〈対策官〉とある。
「もしもし」
電話に出ると、女性の声が聞こえた。確か、母親くらいの歳だったと思う。
「今どこにいるの?中野まで来れない?紹介したい人がいるの」
「〈対策官〉、すみません。さっきまで現場で」
十百華は、〈対策官〉に答えた。
「あら、それは大変だったわねえ。仕事、上手くいってるの?」
「ええ、なんとか。あの、今後のことなんですけど、これから私はどうすれば?」
「それは自分で自分に聞いてみなさい。〈ねえ、私、どうしたい?〉って」
十百華は、禅問答みたいな会話に戸惑った。
「課長、良かったら中野までいかがですか?内務省の上司が中野で待ってるって。良かったら、椿さんもぜひ」
十百華は電話口を押さえながら二人に聞いた。
「いや、今日はやめておこう。捜査本部の件がある。椿、少しだがこれで八坂係長をもてなしてやってくれ。二人とも明日は午後出勤でいい。電話だけは出られるようにしといてくれ」
大石課長はそう言って、長財布から万札を取り出した。
「忘れたのか?オレはいつも午後出勤だ」
三千三郎は助手席から振り返って、課長の万札をひったくった。
「〈対策官〉、30分くらいで着くと思います。職場の人と軽く打ち上げに行ってもいいですか?」
「いいわよ、何人来るの?」
「私と相棒の二人です」
「わかったわ。じゃあ、近くに来たら電話ちょうだい。軽く食べるもの作って待ってるから」
十百華は電話を切って、アリオンを運転する捜査員に頭を下げた。
「八坂係長。じゃあ、中野で降ろしますね。駅前でいいですか?」
捜査員は中野駅前にナビをセットした。
「椿、飲み過ぎんなよ。あと、八坂係長にちょっかい出すんじゃないぞ」
大石課長が三千三郎に釘を刺した。
不定期で全9話アップします。
どうぞお楽しみにお待ちください。
PRです。
必要は方はご覧ください。
👇
社員が防ぐ不正と犯罪
元刑事が明かす人情の機微に触れる事件簿
もしあなたが会社員なら
社内の刑事事件ほど胃が
痛くなる問題はないでしょう。
ハラスメントから薬物犯罪まで
手口と対策を解説した希少なコンテンツです。
見るだけで、
公正な職場が実現できます。
🌳kibi🦉
自己表現は、自己治療
こちらに登録するだけで、
あなたに必要な最新情報、
kibi log & letterを入手できます。
解除はいつでもできます。
kibi logは、あなたに必要ですか?
必要な方は、無料登録してください。
👇